Copyright 2019 & PET OKINAWA All Rights Reserved.
近年、スローライフへの憧れや過去の旅行経験をきっかけに沖縄へ移住する人が増えており、獣医師・動物看護師・トリマーなどの獣医療従事者も例外ではありません。
しかし、沖縄の動物病院では本土とは異なる環境や気候の影響を受けるため、働く前に理解しておくべきことが多くあります。 たとえば、亜熱帯気候特有の病気に遭遇する機会が多いこと、給与や待遇、労働環境が本土とは異なる点があることなどが挙げられます。
今回は、沖縄で獣医師・動物看護師・トリマーとして働く前に知っておきたいポイントや、準備すべきことをご紹介します。

■目次
1.沖縄の動物医療の特徴を理解しよう
2.沖縄の動物病院で働く際の待遇
3.沖縄で働く際の環境について
4.沖縄での生活環境を整えるためのポイント
5.文化や習慣の違いを知ろう
6.おわりに
沖縄は日本で唯一亜熱帯気候の地域です。そのため、動物病院の現場では、亜熱帯気候特有の疾患や寄生虫、環境要因による健康被害に対応する機会が多くなります。
ここでは、沖縄で獣医師・動物看護師・トリマーとして働く際に知っておくべき動物医療の特徴についてご紹介します。
<紫外線による疾患が多い>
沖縄は日本で最も紫外線が強い地域です。その影響で、以下のような紫外線関連疾患が多く見られます。
・皮膚炎(紫外線による炎症やアレルギー)
・白内障(長期間の紫外線曝露により水晶体が濁る)
・角膜炎(目の表面が炎症を起こす)
特に、被毛の薄い犬種や高齢の犬猫では注意が必要です。
<亜熱帯特有の植物による誤飲事故>

沖縄には南国特有の植物が多く、犬や猫が誤って口にしてしまうことで中毒症状を引き起こすことがあります。
・ゲッキツ(シルクジャスミン):嘔吐・下痢・神経症状
・キョウチクトウ:少量でも摂取すると心毒性があり危険
<海洋生物による被害への対応>

沖縄では、ペットをビーチへ連れて行く飼い主様が多く、海での事故も少なくありません。特に、以下の海洋生物による毒傷事故が発生することがあります。
・ハブクラゲ:強い刺痛と腫れ、ショック症状を引き起こす
・カツオノエボシ:クラゲの一種で、触れると強い痛みや炎症を引き起こす
刺された場合、すぐに動物病院で適切な処置が必要となるため、救急対応が求められるケースもあります。
< 一年中活動するマダニと関連疾患>
沖縄は温暖な気候のため、マダニの活動が一年中続きます。中でも「クリイロコイタマダニ」は犬で最もよく見られるマダニで、県の全域で確認されています。
マダニが媒介する病気には以下のようなものがあります。
・バベシア症(赤血球を破壊し、貧血を引き起こす)
・ライム病(発熱や関節炎を伴う)
マダニ予防は通年で行う必要があり、飼い主様への指導も重要になります。
<人獣共通感染症「レプトスピラ症」>
「レプトスピラ」という細菌による感染症です。亜熱帯地域に多く見られる病気で、人にも感染する人獣共通感染症のひとつです。重症化すると命にかかわることもあるため、ワクチン接種による予防が推奨されています。
<観光地ならではの急患対応が多い>
沖縄には観光客が多く、旅行中にペットが体調を崩して来院するケースも珍しくありません。
・過去の通院歴が不明な初診の急患対応が必要になる
・旅行中のストレスや熱中症による体調不良が多い
・沖縄特有の感染症にかかっている可能性もある
そのため、問診の際に旅行歴や症状の経過を詳しく確認し、適切な対応を行うことが求められます。
<ヤギの診療が必要なケースも>
沖縄では、古くからヤギが家畜として飼育されており、現在ではペットとして飼育する方も少なくありません。 そのため、犬や猫の診療に加えて、ヤギの往診を行っている動物病院もあります。
<離島の診療体制>
沖縄には数多くの離島があります。宮古島や石垣島など、大きな島であれば比較的診療体制が整っていますが、小さな離島では十分な動物医療を受けられない地域もあります。
そのため、飼い主様が本島の動物病院まで通院するケースがあるほか、本島の獣医師が定期的に離島を訪れ、診療を行っている地域もあります。
沖縄で働く際、「給与水準が低い」というイメージを持たれることが多いですが、実際の待遇は職種によって異なります。
特に獣医師や動物看護師の給与は、本土と大きな差はありません。 一方で、トリマーの給与は全国平均と比較するとやや低めですが、経験やスキルがあれば高待遇で働くことも可能です。
沖縄と全国の平均年収比較

また、本土からの移住を支援する動物病院も多く、引っ越し費用の補助や住宅手当がつく場合もあります。 移住を検討している方は、こうしたサポート制度の有無も事前に確認しておきましょう。
沖縄は一年を通して温暖な気候ですが、特に夏場は高温多湿になるため、熱中症対策が欠かせません。
動物病院の院内は空調が整っているため快適ですが、通勤時には強い日差しを浴びるため注意が必要です。 屋外での移動が多い場合は、帽子や日傘を活用し、こまめな水分補給を心がけることが大切です。
さらに、夏から秋にかけては台風の影響を大きく受けるため、天候による勤務への影響も考慮する必要があります。沖縄には電車がなく、主な公共交通機関はバスのみです。そのため、台風によってバスが運休すると、学校や企業だけでなく動物病院も休診になることが多いのが特徴です。
ただし、入院患者がいる場合は病院スタッフが泊まり込みで対応することもあるため、勤務先の動物病院がどのような対応を取っているか、事前に確認しておくことが重要です。

沖縄で快適に暮らし、働くためには、本土とは異なる生活環境や交通事情、生活費の違いを事前に理解し、準備を進めることが大切です。ここでは、沖縄での生活をスムーズに始めるためのポイントをご紹介します。
<交通手段は車が必須!免許取得と車の準備を>
沖縄にもバスやモノレール(ゆいレール)がありますが、利用できるエリアが限られているため、日常の移動手段としては車が必要不可欠です。
そのため、移住前に自動車運転免許を取得しておくことをおすすめします。 すでに車を所有している方は、フェリーで沖縄へ運ぶ方法も検討するとよいでしょう。
<生活費は本土よりやや高め!物価や光熱費をチェック>
沖縄の生活費は、地域によって異なりますが、本土と比べると少し高くなる傾向があります。その理由のひとつが輸送コストの影響による物価の高さです。
また光熱費については、冬はほとんど暖房を使わないため電気代を抑えやすいですが、夏場はクーラーを使用する期間が長く、本土より光熱費が高くなりやすいです。
<家族で移住するなら、学校や医療機関の情報をチェック>
家族で沖縄へ移住する場合、地域の学校や医療機関の情報を事前に確認しておくと安心です。
沖縄には「うちなーぐち」と呼ばれる独自の方言がありますが、動物病院での会話では敬語を使う場面が多いため、基本的には標準語で問題ありません。
しかし、都市部から離れた地域では方言が強くなる傾向があるため、よく使われる挨拶や単語を覚えておくと、飼い主様とのコミュニケーションがスムーズになります。
また、沖縄の人々は「絆」をとても大切にする文化があります。病院での対応でも、笑顔で親しみやすい接し方を意識することで、飼い主様との信頼関係を築きやすくなります。
さらに、地域の行事やイベント、コミュニティ活動に参加することで現地の人々とのつながりが生まれ、いざという時に助け合うことができるようになります。 沖縄での生活に早く馴染むためにも積極的に地域交流に参加してみるのもおすすめです。
沖縄の動物病院では、本土ではあまり見られない特有の症例を多く診ることができるほか、診療体制が限られている地域もあるため、幅広い経験を積みながらスキルアップできる環境があります。
しかし、働く際の待遇や気候、文化や風習など、本土とは異なる点が多いのも事実です。 そのため、移住後に「思っていた環境と違った」と後悔しないよう、事前の準備がとても大切です。
沖縄ならではの魅力を感じながら、充実した獣医療のキャリアを築いていきましょう。
■関連する記事はこちらです
・獣医師のための沖縄キャリアガイド | 亜熱帯の島で拓く新たな可能性【前編】
・獣医師のための沖縄キャリアガイド|亜熱帯の島で拓く新たな可能性 【後編】
・沖縄で活躍する獣医師たち|多様な仕事と魅力的なキャリアパス
・沖縄で獣医師として働くには?|地域特性と求められる資格やスキルを解説
沖縄ペット情報サイト
<参考>
厚生労働省(n.d.)「獣医師」しごと情報サイト. https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/223 (2025年2月10日閲覧)
厚生労働省(n.d.)「動物看護師」しごと情報サイト. https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/510 (2025年2月10日閲覧)
厚生労働省(n.d.)「家畜人工授精師」しごと情報サイト. https://shigoto.mhlw.go.jp/User/Occupation/Detail/227 (2025年2月10日閲覧)