沖縄で働く獣医師が皮膚科に強くなる理由とは|予防からケア指導まで幅広く関われる診療の魅力

2025.06.17

沖縄は他県とは異なり亜熱帯気候に属しており、獣医師として多様な症例を経験しやすい地域です。特に皮膚科では、高温多湿な環境により皮膚疾患の発生頻度が高く、通年を通して豊富な臨床経験を積むことができます。

さらに、沖縄の獣医療は地域に根ざした診療が中心であり、飼い主様との距離が近い点も魅力のひとつです。
治療だけでなく、予防やスキンケアの指導を通して信頼関係を築きながら、動物たちの健康を支えるやりがいを感じられるでしょう。

今回は、獣医師向けに沖縄で多く見られる犬や猫の皮膚疾患の特徴や、診断・治療のポイントについてご紹介します。

■目次
1.沖縄で多く見られる動物の皮膚疾患の特徴
2.沖縄の気候が犬や猫の皮膚に与える影響とは?
3.診断の進め方と検査のポイント
4.診断から治療・管理までの流れ
5.治療と予防で皮膚疾患をコントロール
6.おわりに

 

沖縄で多く見られる動物の皮膚疾患の特徴

沖縄では年間を通して高温多湿な気候が続くため、他県では夏に多く見られる皮膚疾患が季節を問わず発生しやすくなります。特に以下のような疾患が多く見られます。

膿皮症(細菌感染による皮膚の炎症)
マラセチア性皮膚炎(常在するカビの一種が異常繁殖することで発症)
皮膚糸状菌症(カビによる皮膚感染症)
外耳炎(耳の内部で細菌や真菌が増殖し炎症を起こす)

また、アトピー性皮膚炎や脂漏症といった慢性皮膚疾患は、気候の影響で症状が悪化しやすく、継続的なケアや飼い主様への丁寧な指導が重要です。

沖縄は一年を通じて湿度が高く、他県のように乾燥することが少ないため、冬でも皮膚疾患の症例が多く見られます。そのため、皮膚科診療に力を入れている動物病院も多く、臨床経験を積みやすい環境が整っています。

沖縄の気候が引き起こす犬や猫の皮膚疾患についてはこちらから

 

沖縄の気候が犬や猫の皮膚に与える影響とは?

高温多湿な環境は皮膚のバリア機能が低下し、その結果、常在菌のバランスが崩れて皮膚疾患を発症しやすくなります。

さらに、沖縄ではノミやダニが一年中活動できるため、アトピー性皮膚炎やアレルギー性皮膚炎の悪化要因にもなりやすく、通年での寄生虫対策が欠かせません。

特に「完全室内飼育なら大丈夫」と考える飼い主様も少なくありませんが、ノミやダニは人の衣服や靴に付着して室内に持ち込まれることがあり、そこから増殖してしまうケースもあります。
そのため、屋外に出る機会の少ない犬や猫であっても予防は必要です。

こうした気候要因を踏まえた診療スキルが求められるのも、沖縄で皮膚科診療に取り組む獣医師の大きな役割のひとつです。

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診断の進め方と検査のポイント

沖縄における皮膚疾患の診断方法は、他県と大きく変わりません。まずは問診・視診・触診を行い、症状の特徴や経過を確認します。その後、必要に応じて以下のような検査を組み合わせて原因を特定していきます。

<皮膚疾患の基本的な検査方法>
皮膚スタンプ検査
セロハンテープやスライドガラスを患部に押し当て、染色してから顕微鏡で観察します。
細菌やマラセチアが存在しているかどうか、またその種類を確認するために行われます。

抜毛検査
被毛を抜き取り、その毛根部分を顕微鏡で詳しく調べることで、真菌や寄生虫が潜んでいないか、またその種類を見極める検査です。

皮膚掻爬検査
皮膚の表面を軽く削り取り、毛根や皮膚の内部に潜む寄生虫がいないか調べます。
特にニキビダニ(毛包虫)など、皮膚に影響を及ぼす寄生虫の感染が疑われる場合に実施されます。

ウッド灯検査
皮膚に専用の紫外線ライトを当てて蛍光が現れるかを観察する検査で、皮膚糸状菌などの真菌感染が疑われる場合に行われます。

くし検査
ノミ取りぐしで毛を梳き、フケやノミの虫体、ノミの糞などが付着していないかを確認することで、ノミの寄生状況や関連する皮膚トラブルの有無を調べる検査です。

 

<より詳しい診断が必要な場合の追加検査>
皮膚疾患は複数の要因が絡んでいることが多く、なかなか治らないケースでは基礎疾患が関係している可能性も考えられます。そのため、経過を見ながら以下のような追加検査を行うこともあります。

培養検査
細菌や真菌の感染が疑われる場合に実施し、病原体の種類や薬剤感受性を調べます。

血液検査
皮膚症状の背後に内分泌疾患(甲状腺機能低下症、副腎皮質機能亢進症など)やアレルギーが関与している場合に実施します。

皮膚生検
腫瘍や免疫疾患の疑いがある場合、皮膚の組織を一部採取し、病理検査を行います。

 

診断から治療・管理までの流れ

ここでは、皮膚疾患の代表的な症例である膿皮症を例に、診断から治療までの流れをご紹介します。

<診断>
まずは問診・視診を行い、以下のような症状が見られる場合、膿皮症が疑われます。

・皮膚の赤みや痒み
・表皮小環(環状のかさぶた)
・膿疱(膿がたまった小さな水ぶくれ)

この場合、皮膚スタンプ検査を実施し、細菌感染の有無を確認します。
また、他の病気を併発している可能性もあるため、抜毛検査皮膚掻爬検査も合わせて行います。

 

<治療>
膿皮症と診断された場合、抗生剤の投与と薬用シャンプーによる治療を開始します。
悪化防止のために毛刈りやエリザベスカラーの使用が推奨される場合もあります。

抗生剤は最低でも2週間継続して使用しますが、改善が見られない場合は薬剤感受性検査を行い、適切な抗生剤に変更します。また、血液検査などで基礎疾患の有無を確認し、必要に応じて追加の治療を行います。

また、基礎疾患がある場合は長期的な管理が必要となるため、シャンプー療法を継続し、定期的な通院で経過を観察します。

 

治療と予防で皮膚疾患をコントロール

皮膚疾患は治療を行うだけでなく、再発を防ぐための対策も欠かせません。
そのため、薬物療法やシャンプー療法に加え、飼い主様へのわかりやすい説明と指導も大切です。

<治療の基本:薬物療法とシャンプー療法>
多くの皮膚疾患では、内服薬・外用薬による薬物療法とシャンプー療法が選択されます。
薬やシャンプーの種類は原因疾患によって異なり、例えば細菌感染が原因の場合は少なくとも2週間の投薬が必要とされます。

しかし、見た目の症状が改善すると飼い主様が自己判断で投薬を中止してしまい、再発するケースも少なくありません
処方の際には「症状がなくなっても、薬は指示通り使い切ることが大切です」としっかり伝え、継続治療の必要性を理解していただきましょう。

 

<環境管理も治療の一環>
皮膚疾患の管理においては、薬物療法やシャンプー療法だけでなく、生活環境の整備も欠かせません。特に高温多湿な沖縄では、湿度管理が治療効果や再発予防に直結します。

湿度が高い日は、エアコンや除湿機を活用し、室内の湿度を60%以下に保つように飼い主様へ伝えましょう。

 

<ノミ・ダニ予防の徹底>
ノミやダニの予防には、月1回の定期的な投薬が必要です。

投薬を忘れがちな飼い主様には健康診断を兼ねて毎月ご来院いただき、予防薬を院内で投与するご提案も、有効な選択肢のひとつです。
このスタイルであれば、予防を確実に続けられるだけでなく、愛犬・愛猫の健康状態を定期的に確認できるというメリットもあります。

 

おわりに

沖縄では皮膚科診療を学ぶ機会が多く、日々の診療を通じて実践的な経験を積むことができます。

さらに近年ではオンライン講習会なども充実しており、他県の最新治療を学びながら、それを沖縄の獣医療に活かすこともできます。

「皮膚科診療の経験を積みたい」「沖縄ならではの症例に触れながら学びたい」
そんな獣医師の方にとって、沖縄での診療経験はキャリアを広げる大きなチャンスとなるはずです。

 

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