沖縄で働く動物看護師のための感染対策|高温多湿な環境で気をつけたいポイント

2025.06.18

沖縄は一年を通して気温と湿度が高く、細菌やウイルスなどの病原体が活動しやすい環境です。また、ダニや蚊といった害虫も多く見られ、犬や猫の感染症が発生しやすい地域といえます。

加えて、動物から人へうつる「人獣共通感染症(ズーノーシス)」のリスクもあるため、動物看護師として正しい知識と対策を身につけておくことが大切です。

そこで今回は、沖縄で働く動物看護師に向けて、沖縄の気候や生活環境をふまえ、日々の現場で実践できる感染対策のポイントをご紹介します。

注※本記事では国家資格である「愛玩動物看護師」に限らず「動物看護業務に従事する者」として動物看護師という名称を用いています

■目次
1.沖縄で特に注意したい感染症とは?
2.院内感染を防ぐために|実践したい衛生管理の基本
3.沖縄の気候に合わせた医療器具の消毒・滅菌管理
4.感染症の早期発見につなげるために|動物看護師が担う検査サポートと声かけの工夫
5.おわりに

 

沖縄で特に注意したい感染症とは?

温暖で湿度の高い沖縄の気候は、感染症が発生しやすい環境といえます。
ここでは、動物看護師の皆さんが日々のケアの中で意識しておきたい、代表的な感染症とその特徴をご紹介します。

フィラリア症
フィラリア症は、蚊が媒介する寄生虫(フィラリア)が心臓や肺の血管に寄生することで起こる病気です。沖縄では冬でも蚊が見られるため、季節を問わず予防が必要です。

初期には、咳や息切れ、食欲の低下、体重減少、運動を嫌がるようになるなどがあり、進行すると腹水がたまってお腹が膨れることもあります。放置すると命にかかわることもあるため、日々の観察と早期の対応が重要です。

フィラリア症は、予防薬をきちんと投与していれば、ほとんどの場合で防ぐことができます。
しかし、過去に予防を中断してしまったことがある場合や、咳をする、散歩を嫌がる、すぐに疲れてしまうといった様子が見られたりする際には、フィラリア症への感染を疑って、早めに動物病院での検査を受けることが大切です。

 

ノミ・マダニによる感染症
沖縄ではノミやマダニが一年を通して活動しており、寄生による皮膚トラブルや感染症のリスクが常にあります。これらの外部寄生虫は、アレルギー性皮膚炎の原因になるほか、バベシア症や瓜実条虫症などを媒介します。

また、猫ひっかき病や日本紅斑熱といった人にも感染する病気を引き起こすことがあるため、注意が必要です。

犬や猫が体をよくかいているときは、被毛のすき間を丁寧に観察し、ノミやマダニがいないかを確認しましょう。

 

皮膚感染症
沖縄の高温多湿な環境では、皮膚のバリア機能が低下し、細菌や真菌(カビ)が異常に増えることで皮膚トラブルが起こりやすくなります。

細菌性皮膚炎では、かゆみ・フケ・膿をもった発疹が出ることがあり、円形の脱毛やかさぶたを伴う「表皮小環」が見られる場合もあります。

また、真菌性皮膚炎では、赤みや強いかゆみに加えて、脂っぽくカビ臭いにおいがすることもあるため、見た目に異常がなくても、動物がしきりにかゆがる様子があれば、皮膚感染の可能性を視野に入れて観察しましょう。

沖縄の気候が引き起こす犬や猫の皮膚疾患についてはこちら

 

院内感染を防ぐために|実践したい衛生管理の基本

高温多湿な気候では、病原体が繁殖・広がりやすく、院内での感染リスクも高まります。だからこそ、動物看護師として日々の業務のなかで感染対策を丁寧に行うことが、とても大切です。
一つひとつの小さな配慮が、動物たちの安全だけでなく、スタッフや飼い主様の安心にもつながります。

下記にご紹介するのは、感染管理の基本となるポイントです。日頃のルーティンを今一度見直すきっかけとして確認してみましょう。

動物看護師向けの感染防止チェックリスト。診察や処置のたびに手指消毒をしているか、診察ごとに診察台を消毒しているか、環境表面の定期的な消毒をしているか、感染症の疑いがある動物を隔離して対応しているか、感染性医療廃棄物を適切に管理しているかを確認する内容。

手指衛生と環境消毒の徹底
もっとも基本であり、かつ効果的な感染対策が「手洗い」と「環境の清潔維持」です。動物の排泄物、分泌物に触れた後は、石けんと流水でしっかり手を洗い、アルコールなどで消毒することが欠かせません。

また、診察台は診察ごとに消毒し、壁や床といった環境表面も定期的に清掃・消毒を行いましょう。病原体を院内に残さないことが大切です。

 

感染症が疑われる動物の対応方法
伝染性の高い感染症が疑われる動物が来院した場合は、院内での広がりを防ぐための配慮が必要です。
待合室での滞在時間をできるだけ短くし、すぐに診察室へご案内するようにしましょう。必要に応じてマスクや手袋を着用し、汚れた手で器具やドアノブに触れないよう気をつけることも重要です。
こうした丁寧な対応の積み重ねが、院内での感染拡大防止につながります。

沖縄だからこそ注意したい感染症についてはこちら

 

感染性医療廃棄物の適切な管理
感染性のある医療廃棄物は、一般の廃棄物と明確に分けて処理することが基本です。滅菌や消毒を行ったうえで専門業者に回収を依頼しましょう。

沖縄では気温や湿度の影響で廃棄物が傷みやすく、悪臭や腐敗のリスクもあります。密閉容器に入れて冷蔵保管し、できるだけ早く処理しましょう。

高温多湿という沖縄特有の環境では、ほんの少しの油断が大きなトラブルにつながることもあります。動物たちの健康を守ることはもちろん、飼い主様に安心して通っていただけるよう、日々の感染対策を一つひとつ丁寧に取り組んでいきましょう。

 

沖縄の気候に合わせた医療器具の消毒・滅菌管理

動物看護の現場では、使用する医療器具の消毒や滅菌を適切に行うことが、院内感染の予防に欠かせません。

器具の用途や汚染の程度に応じて方法を使い分ける必要があり、明確な獣医療のガイドラインは少ないものの、多くの動物病院では人医療でも用いられている「スポルディングの分類」に準じて管理されています。

スポルディングの分類表。感染リスクに応じて器具をクリティカル(高リスク:手術器具など、滅菌)、セミクリティカル(中リスク:麻酔器具・内視鏡など、高・中水準消毒)、ノンクリティカル(低リスク:聴診器・血圧計のカフなど、低水準消毒)に分類し、消毒レベルを定めている。

接触のない場所からも感染が広がる可能性
動物同士が直接接触していなくても、診察台やケージ、待合室のイスなど、環境表面に触れることで感染が広がることがあります。

そのため、アルコールや複合次亜塩素酸系消毒剤(例:ビルコン)、塩素系消毒剤などを使って、定期的に清掃・消毒を行うことが大切です。

診察台やケージは動物ごとに消毒
・待合室などの共用スペースは、開院前・お昼・閉院後の1日3回を目安に清掃

こうした基本の積み重ねが、感染予防につながります。

 

高温多湿な沖縄で気をつけたいこと
沖縄では気温や湿度が高く、特に夏場はカビや細菌の繁殖リスクが高まります。院内の除湿対策を意識し、エアコンや除湿器なども適切に活用しましょう。

また、使用頻度の少ない器具は、湿気のこもった収納内で汚染リスクが高まりやすいため、以下のような工夫が有効です。

・定期的に器具の状態をチェック
・保管棚の扉を開けて空気を入れ替える
・湿気のこもりやすい場所には乾燥剤を設置

 

異常が見つかった場合の対応
もしも器具や保管場所にカビや異臭などの異常が見られた場合は、速やかに再洗浄・再消毒、または滅菌を行いましょう。そのうえで、保管方法や収納場所の見直しも検討します。

日々のこまめな確認とひと手間の工夫が、安全な医療環境を守ることにつながります。

 

感染症の早期発見につなげるために|動物看護師が担う検査サポートと声かけの工夫

感染症は、早期に見つけて対応することで重症化を防ぐことができます。そのためには、正確な検査を行うことが欠かせません。
ここでは、現場でよく行われる検査と、その際に動物看護師として気をつけたいポイントを整理しておきましょう。

血液検査
血液検査では、フィラリア症やバベシア症などの感染があるかを確認することができます。基本的に絶食は必要ありませんが、他の検査と同時に行う場合には条件が異なることもあります。
飼い主様から食事に関するご質問をいただいた際には、獣医師に確認のうえ、正確なご案内を心がけましょう。

 

糞便検査
マダニによって媒介される瓜実条虫症(うりざねじょうちゅうしょう)は、糞便検査によって見つけることができます。
できるだけ正確な検査を行うためにも、新鮮な便をお持ちいただくようご案内しましょう。

 

皮膚検査
皮膚にトラブルがある場合、細菌や真菌などの感染が原因になっていることがあります。必要に応じて、被毛の一部や皮膚の表面からサンプルを採取して検査を行います。

膿やかさぶたがあっても、洗い流してしまうと診断が難しくなることがあるため、来院前にシャンプーや清拭を控えていただくよう、あらかじめお声掛けすることが大切です。

 

おわりに

沖縄のような高温多湿な地域では感染症のリスクが高まりやすいため、院内での感染管理を徹底することがとても大切です。
なかでも、動物看護師が対応する役割は大きく、日々の業務の中で衛生管理や感染予防の中心を担うことが求められます。

感染管理に関する知識や技術は常に進化しています。そのため、専門誌を読んだり、セミナーや勉強会に参加したりしながら、学びを積み重ねていくことも大切です。

日々の感染対策は、動物たちだけでなく、飼い主様やスタッフの安心・安全を支える土台になります。地域の動物医療を支える一員として、これからも丁寧に取り組んでいきましょう。

 

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<参考>
厚生労働省(2024年)「洗浄・消毒・滅菌」厚生労働省. https://www.mhlw.go.jp/content/001301259.pdf (2025年5月18日閲覧)
(著者名不明)(2010)「Title of the article」(記事タイトルを補記)*Veterinary Nursing Journal*, 25(2). https://www.jstage.jst.go.jp/article/veterinarynursing/25/2/25_1/_pdf (2025年5月18日閲覧)