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沖縄県における動物の救急医療体制は、他県と比較して多くの制約を抱えています。特に離島地域では、地理的な隔たりや交通手段の限界により、迅速かつ十分な医療サービスの提供が難しいのが現状です。
こうした厳しい環境の中、県内の獣医師は限られた人的・物的資源を駆使して救急症例に対応しており、使命感のもとで尽力されている一方で、現場での葛藤や負担を感じている方も少なくありません。
今回は、獣医師の皆様に向けて、沖縄における動物救急医療の現状を整理しながら、離島を含む各地域の特性を踏まえた課題と、今後の獣医療が果たすべき役割について考えていきます。

■目次
1.離島や過疎地の獣医療インフラ|不足する設備と人材の現実
2.搬送の壁に立ちはだかる自然環境|交通アクセスの課題
3.夜間診療の現状|当番制による支援とその課題
4.飼い主様と動物病院の連携|救急対応への理解と事前の備え
5.まとめ|沖縄の未来を支えるために獣医師ができること
現在、沖縄県内には24時間体制で診療を行っている動物病院が存在しておらず、夜間の救急対応は各病院が自主的に対応しているのが実情です。しかしながら、夜間診療に対応可能な施設は限られており、その数は決して十分とはいえません。
さらに、県内には獣医系の大学病院や二次診療施設がなく、CTやMRIといった高度な画像診断装置を備える動物病院もまだ少数にとどまっています。
特に北部の過疎地域や離島部では、物理的・設備的な制約から救急医療をはじめとした幅広い獣医療サービスが行き届きにくいという状況です。
また、沖縄県内では地域を問わず慢性的な獣医師不足が続いており、中には夜間診療を獣医師1名で担っている施設もあります。その結果、救急医療に従事する獣医師には、身体的・心理的な負担が大きくのしかかっており、これも継続的な課題の一つといえるでしょう。

沖縄県内で動物が救急医療を受ける際には、搬送手段の確保や移動にかかる時間が大きな課題となっています。
まず、地域によって救急医療へのアクセスには大きな差があります。中南部の都市部では、比較的近くに救急対応可能な動物病院があることが多い一方で、北部の過疎地域では高速道路が整備されておらず、搬送に時間がかかることが少なくありません。
さらに、離島で救急対応が必要と判断された場合は、本島への搬送が必要になります。しかしその際には、時間的・物理的な制約が大きく影響します。
航空機や船を利用する必要があり、天候や運行状況によっては搬送が遅れる、あるいは不可能になるケースもあります。
また、救急搬送を要する動物は体力が低下していることが多く、沖縄の高温多湿な環境下での長時間移動は大きな負担になります。
そのため、搬送中はこまめに休憩をとりながら、車内の温度管理や冷却グッズの使用など、熱中症対策をしっかりと行うことが重要です。
加えて、沖縄では台風や急な天候の変化による影響も無視できません。飛行機の欠航だけでなく、道路の冠水や土砂崩れにより車での搬送が困難になる場合もあります。こうした自然条件による交通インフラへの影響も、搬送体制における大きなリスクのひとつといえるでしょう。
沖縄県内の救急医療体制を少しでも改善するために、沖縄県獣医師会では夜間当番診療制度を導入しています。
この取り組みでは、協力動物病院が当番制で夜間診療を担当し、かかりつけ医での受診が難しい時間帯に応急処置を行う体制がとられています。
基本的には、症状の一次対応を行い、翌日以降はかかりつけ医に引き継いで継続治療を受けてもらうことを前提としています。
ただし、この当番診療は午後8時から午後11時までが電話受付時間となっており、対応する当番病院の場所も日ごとに異なります。加えて、当番病院の多くは中南部に集中しているため、北部や離島などからのアクセスは容易ではありません。
また、対応病院が休診日を設けている場合や、台風などの天候不良により急きょ診療が中止となることもあります。

これまで述べてきたように、沖縄県内の動物救急医療体制は十分に整っているとはいえず、多くの動物病院が限られた人員や設備の中で対応せざるを得ないのが現状です。
救急診療では、通常診療に比べて追加料金が発生するほか、初診の場合にはカルテがないため、一から診察や検査を行う必要があります。そのため、診療費が高額になるケースも少なくありません。
こうした背景を説明し、可能であれば日中の診療時間内での受診を推奨するよう飼い主様に伝えることが大切です。
ただし、夜間や休日に急な体調変化が起きた際には、緊急対応が必要な場合もあります。以下のような症状が見られた場合は、速やかな救急受診を検討してもらう必要があります。
・意識がない、ぐったりしている
・呼吸が荒く苦しそう
・嘔吐や下痢が止まらない
・出血が止まらない
・排尿がまったくない
・けいれんが続いている
これらの症状については、どのような状態が緊急性を伴うのかを、あらかじめ飼い主様に具体的に伝えておくことが大切です。その上で、判断に迷った際にはまずかかりつけ医へ連絡するように指導しましょう。
<応急処置の基本と指導ポイント>
応急的な処置についても、最低限の対応を飼い主様に知っておいてもらうことで、搬送前の時間の使い方が変わってきます。
・熱中症が疑われる場合:体を濡らし、風を当てて冷却する
・出血が止まらない場合:清潔な布などでしっかり圧迫止血
・けいれんがある場合:無理に触らず、静かで安全な場所に移す
<夜間診療の連絡先と事前準備>
夜間診療の連絡先や受診方法についても、診察時などの機会を通じて案内しておくことが重要です。
かかりつけ医に連絡がつかない場合には、沖縄県獣医師会の夜間診療専用ダイヤル(☎098-833-6067)や最寄りの夜間対応病院に連絡するように指導しておくと、いざというときの混乱を防げます。
このように、救急医療の限られた体制を補うには、飼い主様との継続的な対話と信頼関係の構築が欠かせません。
沖縄県には現在、24時間体制で診療を行っている動物病院がなく、救急医療は限られた人材と設備の中で支えられているのが現状です。
その中で、沖縄県獣医師会は夜間当番診療を当番制で実施し、地域の動物たちの命を守る取り組みを続けています。
こうした状況を根本的に改善していくためには、県内で働く獣医師の増加と、地域に根差した人材の定着が不可欠です。救急医療だけでなく、幅広い獣医療サービスを継続的に提供していくためには、一人ひとりの獣医師の力が求められています。
もし沖縄の獣医療に関心をお持ちいただけたなら、ぜひ一度現地を訪れ、実際の現場や地域の声に触れてみてください。
きっと、これまでとは違う視点や、新たなやりがいが見つかるでしょう。
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