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沖縄の温暖な気候は、動物たちの健康にさまざまな影響を与えます。特に熱中症、皮膚疾患、寄生虫感染、食中毒などは発生しやすく、季節を問わず注意が必要です。
一般的に梅雨や夏場に多いと思われがちですが、沖縄では冬でも気温が比較的高いため、これらの病気のリスクが一年中続くという特徴があります。
今回は、沖縄でよく見られる動物の病気について、獣医師の方向けに詳しく解説します。特に沖縄への移住を検討している獣医師の方にとっては、診療の参考になる内容ですので、ぜひチェックしてみてください。
■目次
1.沖縄での熱中症・暑熱障害対策
2.湿度が引き起こす皮膚疾患と対策
3.年間を通じた寄生虫予防と対策
4.高温多湿が引き起こす消化器疾患と対策
5.まとめ
沖縄は亜熱帯気候に属し、一年を通じて暖かいのが特徴です。年間の平均気温は24.4℃と高く、湿度も冬場で約70%、梅雨の時期には90%近くまで上昇します。
特に冬は曇りや雨の日が多いため、年間の日照時間は意外にも全国平均より短いという点も沖縄ならではの気候特性です。
このような環境は動物たちの健康にも影響を及ぼし、本土では夏に多く見られる病気が沖縄では一年中発生する傾向にあります。
<犬や猫に多い病気>
・熱中症
本土でも夏場には熱中症になる犬や猫が増えますが、沖縄では高温に加えて湿度も非常に高く、さらにリスクが上昇します。特に、風通しが悪い場所や屋外での活動には十分な注意が必要です。
・皮膚炎
沖縄ではマラセチア性皮膚炎の発生率が高いのが特徴です。湿度が高いため、「治療後にすぐ再発する」ケースが多く、長期管理が求められる点が本土とは異なります。
・寄生虫感染症
亜熱帯気候に属する沖縄では、年間を通じて虫の活動が活発であるため、寄生虫感染症のリスクが高くなります。特に、蚊が媒介するフィラリア症や、マダニが媒介する感染症には注意が必要です。
本土ではフィラリア予防は春から秋にかけて行うのが一般的ですが、沖縄では冬でも蚊が発生するため、通年での予防が推奨されます。また、マダニの種類にも地域差があり、本土で一般的なフタトゲチマダニに対し、沖縄ではクリイロコイタマダニの発生が多いのが特徴です。
<小動物>
沖縄の高温多湿な環境は、小動物にとって大きな負担となります。特にウサギやハムスター、モルモット、フェレットは暑さや湿度の影響を受けやすく、わずかな体調の変化が命に関わることも少なくありません。
「食欲が落ちた」「動きが鈍い」といった軽度の異変でも、深刻な状態に進行する可能性があるため、早期の受診を促すことが重要です。
沖縄の高温多湿な環境では、細菌感染や真菌症が発生しやすく、慢性化しやすい点が特徴です。皮膚のバリア機能が低下すると、常在菌や真菌が異常繁殖し、皮膚炎を引き起こすため、診断と治療に加え、再発防止のためのスキンケア指導が重要になります。
<細菌性皮膚炎(膿皮症)>
皮膚の常在菌であるブドウ球菌が異常繁殖することで発症します。発疹や発赤、痒み、脱毛、フケなどの症状が現れ、周囲にフケを伴う円形の脱毛(表皮小環)が見られることもあります。特に湿度が高い環境では、治療後も再発しやすいため、長期的な管理が必要です。
<皮膚真菌症>
沖縄ではマラセチア性皮膚炎と皮膚糸状菌症が多くみられます。
・マラセチア性皮膚炎:皮膚の赤み、ベタつき、フケ、黒ずみが特徴で、耳や足の裏、しわの間などに症状が出やすい。
・皮膚糸状菌症:顔の周りや指の間、足の付け根を中心に円形の脱毛やフケが見られる。多頭飼育環境では感染が広がりやすい点にも注意が必要。
<診断と治療のポイント>
診断方法は本土と同様、細菌感染や真菌感染が単独で発症するケースは少なく、複数の要因が絡み合っていることが多いため、適切な検査を行い診断を確定させることが重要です。
・細胞診:炎症の有無や細菌・真菌の確認
・抜毛検査:寄生虫や皮膚糸状菌のチェック
・皮膚掻爬(ソウハ)検査:ニキビダニや皮膚の異常評価
治療は、原因に応じた抗菌薬・抗真菌薬の使用に加え、シャンプー療法を組み合わせることで治療効果を高めることができます。沖縄では湿度の影響で再発しやすいため、治療が終了した後も定期的なスキンケアを継続するように指導するとよいでしょう。
また、皮膚の健康を保つことが再発予防につながるため、定期的なシャンプーやブラッシングを習慣化するよう飼い主様に指導することが重要です。
沖縄の温暖な気候では、寄生虫の活動が一年中活発であり、特にフィラリア症やマダニ媒介疾患のリスクが高いのが特徴です。本土とは異なり、通年での予防が必要となるため、飼い主様に適切な対策を継続してもらうことが重要です。
<フィラリア>
本土ではフィラリア予防の投薬期間が5~12月の地域が多いですが、沖縄では冬でも蚊が発生するため、季節を問わず継続的な予防が必要です。
■飼い主様への指導ポイント
・フィラリア予防薬を年間を通じて適切に投薬すれば、確実に予防できることを説明し、継続的な投薬の重要性を理解してもらう。
・予防薬には経口薬、スポットタイプ、注射タイプなどがあり、投薬頻度も異なるため、飼い主様のライフスタイルや犬・猫の性格に合わせた選択肢を提案する。
・投薬忘れを防ぐため、カレンダーアプリの活用や動物病院からのリマインダー通知などを勧めると、より確実に予防が継続しやすい。
<マダニ>
沖縄ではマダニの活動が一年を通して活発であり、本土とは異なる種類のマダニが多く見られます。特に犬では「クリイロコイタマダニ」、猫では「タカサゴキララマダニ」がよく確認されています。
一般的にマダニは草むらや森林などの自然環境に生息していますが、クリイロコイタマダニは例外的に人家の周辺にも定着することが知られており、都市部や住宅地でも注意が必要です。室内飼育の犬や猫でも感染リスクがあるため、屋外へ出る機会の少ない動物にも定期的な予防を推奨するとよいでしょう。
■治療と予防のポイント
治療方法は本土と同様で、マダニを目視で確認できた場合は口器が皮膚に残らないよう慎重にピンセットで取り除き、適切な駆除薬を投与します。
また、予防薬の定期投与が効果的な予防策となります。月に1回の投与を続ければ高い確率で感染を予防できるため、フィラリア予防と合わせて通年での投与を推奨し、飼い主様の理解を得ることが重要です。さらに、散歩時には草むらや植生の多い場所を避けるよう指導し、帰宅後は毎回マダニが付着していないか確認する習慣を身につけてもらうことが望ましいでしょう。
沖縄の高温多湿な環境では、ペットフードの劣化が早まり、食中毒のリスクが高まります。特に梅雨から夏場にかけては、フードの管理が不適切だと細菌が繁殖しやすく、急性胃腸炎を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
食後に突然の嘔吐や下痢・血便が見られる場合は食中毒の可能性が高く、重症化すると呼吸困難や痙攣を引き起こすこともあります。消化器症状が確認されたら、速やかに動物病院を受診するよう飼い主様に指導しましょう。
<フードの管理方法>
食中毒を防ぐためには、適切なフードの保管と取り扱いが重要です。飼い主様に以下のポイントを指導しましょう。
・ドライフードは高温多湿を避け、風通しの良い冷暗所に保管する
・開封後のドライフードは密閉容器に移し、できるだけ空気に触れないようにする(ジッパーバッグや密閉容器を活用し、開け閉めの回数を減らす)
・パウチは開封後すぐに与え、食べ残しは保存せずに廃棄する
・缶詰は開封後、別の容器に移して冷蔵保存し、2〜3日以内に食べ切る
本土では夏季に多く見られる病気も、沖縄では年間を通じて発生するため、継続的な予防管理が欠かせません。特に、気候の影響を受けやすい熱中症、皮膚疾患、寄生虫感染症、消化器疾患などは、季節を問わず注意が必要です。
管理に不安を感じる飼い主様には、毎月の定期的な通院を勧め、継続的に健康状態をモニタリングすることが有効です。
また、沖縄は離島という特性上、本土と比べて獣医療の情報が限られることがあるため、積極的な情報収集が欠かせません。行政や獣医師会からの最新情報に常にアンテナを張り、地域特有の疾病や対策についての知識を深めることが重要です。
■沖縄で働きたい獣医師向けの記事はこちらから
・沖縄で獣医師として働くには?|地域特性と求められる資格やスキルを解説
・沖縄で活躍する獣医師たち|多様な仕事と魅力的なキャリアパス
・獣医師のための沖縄キャリアガイド | 亜熱帯の島で拓く新たな可能性【前編】
・獣医師のための沖縄キャリアガイド|亜熱帯の島で拓く新たな可能性 【後編】
沖縄ペット情報サイト
<参考>
沖縄県教育委員会(n.d.)「児童・生徒の健康」沖縄県公式サイト. https://www.pref.okinawa.jp/kyoiku/kodomo/1002657/1002661/index.html (2025年2月10日閲覧)
気象庁(n.d.)「沖縄の月別気象データ」気象庁公式サイト. https://www.data.jma.go.jp/obd/stats/etrn/view/monthly_s3.php?prec_no=91&block_no=47936 (2025年2月10日閲覧)